『銀行から融資を引きやすくするためには、どうすれば良いでしょうか?』
融資が厳しくなってきたため、多くの方からこのような質問を頂きます。
答えは『銀行の意思決定の仕組みを理解して、銀行が付き合いやすい投資家になる』ことです。
銀行には独特の意思決定プロセスがあります。
それを理解して融資の打診をすることで、格段に融資が出る可能性が高まります。
今回は、銀行員が何を考え、どのように融資の意思決定をしているのか、銀行の内情を説明します。
『敵を知り己を知れば百戦殆からず』と孫子も言ってますしね。
個人投資家は地銀・信金を重視すべき
銀行は大きくわけて3種類あります。
- メガバンク(都銀)
- 地銀
- 信金
初心者のうちは、メガバンクよりも地銀や信金を利用しましょう。
これは、企業が融資を受けるときと同じ発想です。
メガバンクでは扱う金額が大きすぎて1~2億の案件では熱心に取り扱ってくれません。
一方で地銀や信金は中小企業、地元への融資がメインですので、しっかり話を聞いてくれますし、いきなり支店長が応対してくれることもあります。
実際に僕のメインバンクは地元の信用金庫です。
この信金から合計で1.5億円借りてます。
1.5億円というと、メガバンクでは少額融資の部類に入りますが、信金だと大口顧客扱いになります。
信用金庫の平均融資額は1件あたり300万円とか500万円程度の規模感です。
そのため、僕のような個人投資家でも特別扱いしてくれます。
物件の融資の打診する際には、必ず支店長自ら応対してくれます。
大きく分けて銀行では最初に支店決裁があり、支店長がOKを出した案件のみ本部決裁へと進みます。
僕の場合は最初から支店長と話すので支店長決裁は必要ありません。
いきなり本部決裁です。
そのため、融資スピードも早くできるため重宝しています。
また僕の知り合いに総資産50億円を超える大物大家さんがいるのですが、彼はいまだにメインバンクは地元の信用金庫です。
彼くらいの規模になると当然メガバンクとも付き合うことは可能なのですが、あえて信金との取引にこだわっています。
理由はその信金の中でナンバーワンの地位を獲得することで、通常なら融資がでない案件にも融資がでるからです。
実際に彼は付き合いのある全ての信金の理事長と直接コネクションがあります。
そのため、個人投資家は地銀・信金とのコネクションを重視すると良いでしょう。
ちなみに、地銀・信金は自分が住んでいるエリアに支店を構えているところを選びましょう。
地銀や信金は、融資を受ける人がどこに住んでいるのか、物件の所在地はどこなのかが重要になります。
特に信金は地域貢献を目的に明確に掲げていますので、営業エリア内に投資家の住所及び物件があるかどうかを非常に重視します。
融資を受ける時の流れ
銀行で融資を受けるまでには次のステップがあります。
融資打診
気になる物件が見つかったら、銀行に対してヒアリングに行きます。
いきなり窓口に訪問しても良いですが、できれば事前に電話してアポイントを取ってから行きましょう。
「収益不動産の融資をお願いしたいのですが、融資担当の方との面談をお願いします」と伝えるだけでOKです。
昔は銀行員には不動産投資という言葉を使ってはいけないと言われていましたが、銀行も投資として行っていることは百も承知なので問題ありません。
銀行に行く際には次の資料を持参しましょう。
- 物件資料(概要書、レントロール(家賃一覧表))
- 収支シミュレーション
- 自己紹介書(勤務先、年収、勤続年数、保有資格等)
- 資産内訳(現金、株・投資信託、不動産)
- 源泉徴収票(3年分)
- 決算書(すでに不動産投資を行っている場合)
自己紹介書や資産内訳はエクセルにまとめておくと便利です。
収支シミュレーションについては、年間のキャッシュフロー(CF)がわかるものを作成します。
年間CF=家賃収入ー支出(ローン返済額、管理費、原状回復費、固定資産税)
税引き後の年間キャッシュフローを5年間分作成します。
余裕がある人は融資期間に合わせて20~30年分作成するとベストです。
実は銀行は投資家が作成する収支シミュレーション結果を元に融資稟議書を作成するわけではありません。
銀行には独自の収支計算ロジックがあり、たいてい家賃を20~30%下げるようなストレスをかけて収支計算を行います。
じゃあ、投資家が自分自身で収支シミュレーションを準備する意味がないかというと、そうでもありません。
まず、収支シミュレーションは投資家自らが投資判断をする判断材料として作成します。
シミュレーションがなければ儲かる物件かどうか判別できませんからね。
そして、投資家が作成した収支シミュレーションを銀行に提出目的は、銀行に「この人は賃貸経営を理解しているな」と思わせることです。
将来の家賃だけでなく、空室率、募集費用、大規模修繕費用といった必要な費用を投資家が認識できていることをアピールするのです。
融資担当者が本部決裁に上げる稟議書には投資家が作成した収支シミュレーションも添付されます。
そして、投資家自身に『賃貸経営する知識・ノウハウ』があることのエビデンス(証拠)として活用されます。
そのため、収支シミュレーションは手を抜かずに作成しましょう。
収支シミュレーション(事業計画)の具体的な作り方次の記事で解説していますので、読んでみてください。
支店審査
融資担当が融資できる可能性があると判断した場合は、支店審査に進みます。
支店審査とは、融資担当が支店長のご意向を伺うという意味です。
最終的には本部に審査を上げることになりますが、支店長としては筋の良くない案件を持っていくと自分の評価が下がってしまいます。
そのため、本部で審査に値する物件かどうかを支店長がひとまず判断します。
ちなみに、銀行との関係性ができてくると支店長審査はほぼ顔パスです。
冒頭でも述べましたが、僕のメインバンクの信金はいきなり支店長が出てくるので、その場で支店長判断がもらえます。
本部審査
支店審査をパスすると、次は本部審査に移ります。
本部審査とは、審査部の審査のことです。
銀行には大きく融資部と審査部という2つの部署があり、それぞれ対立する構図となっています。
大まかにいうと支店は融資部であり、本部は審査部となります。
もともと銀行はお金を貸すのが仕事ですから、できることなら融資したいと考えています。
特に融資担当は融資実績がそのまま人事評価につながるからです。
一方で、審査部の人は融資案件のリスクを適切に評価するのが仕事です。
審査OKにした案件が焦げ付きたりした場合は、審査部の評価が下がります。
そのため、融資部の人は実績を増やしたい一方で、審査部の人は下手な融資をして焦げ付き案件を増やしたくないという対立があるのです。
これが銀行の内情です。
では、融資部と審査部のどちらが立場的に強いのでしょうか。
それは基本的に審査部です。
審査部が本部に所属していることからも明らかですね。
ただ、例外的に審査部よりも融資部が強い傾向がある銀行も中にはあります。
審査が緩い銀行は数字のためにどんどん融資残高を増やしていくので僕たち投資家にとってはありがたい存在です。
いっぽうで、バブルを引き起こす可能性があるため、世の中的にはあまり好ましくありません。
昔のスルガ銀行は融資部が強い銀行の代表例でしたね。
ただ、ほとんどの銀行では審査部のほうが権限が強いです。
そのため、支店審査よりも本部審査の方が厳しくチェックされます。
そして、本部審査を通過して初めて、融資OKが出ることになります。
金消契約
本部審査OKであれば、いよいよ銀行との契約になります。
金融機関からお金を借りる契約のことを『金銭消費貸借契約』と言います。
略して金消契約と呼ばれています。
銀行に出向いていろいろな書類にサインしたり、印鑑を押したりします。
説明を聞いて、押印完了までに約2時間くらいかかります。
融資実行/抵当権設定
最後に実際の融資実行です。
いわゆる『決済日』というものです。
決済日には以下の関係者が全員金融機関に集合します。
- 売主
- 買主
- 金融機関
- 不動産仲介業者
- 司法書士
まず融資が実行されて、融資金額が買主の口座に振り込まれます。
次に買主は売主の口座に代金を振り込みます。
売主側の金融機関で着金が確認できれば決済は終了です。
決済と同時に所有権の移転と抵当権の設定も行われます。
所有権の保存登記と抵当権の設定手続きは司法書士が行ってくれます。
以上で決済が完了です。
だいたい3時間くらいかかることが一般的ですので、会社員の方は半休を取得したほうが良いですね。
審査で重視されるポイント
融資審査で重視されるポイントは次の2つです。
- キャッシュフロー
- バランスシート(貸借対照表)
どちらも会計用語ですが、会計の知識がなくても理解できるように分かりやすく説明するのでご安心ください。
キャッシュフロー
キャッシュフローとは、家賃収入から様々な支出を差し引いた手残り現金のことです。
金融機関は基本的に年間キャッシュフローがプラスの物件にしか融資をしてくれません。
そのため、審査を打診する前に自分で年間のキャッシュフローを計算しておきましょう。
キャシュフローの計算の仕方は、次の式で求めることができます。
家賃収入 ー 支出(借入金返済、管理費、修繕費、固都税)
まずキャッシュフローがプラスであることが大前提です。
たまに新築の区分マンションだとキャッシュフローがマイナスの物件がありますが、銀行からの評価が非常に悪くなるため、絶対に買ってはダメです。
次にストレスチェックを行います。
僕たち投資家はベストケース(満室想定)でシミュレーションしますが、金融機関はワーストケースを想定して審査を行います。
ほとんどの金融機関が空室率30%だったとしても、キャッシュフローがプラスかどうかをチェックします。
年間家賃収入から30%引いても、手残りのキャッシュフローがプラスであればテストには合格です。
ただ、金融機関はキャッシュフロー以外にももう一つの指標をチェックしています。
それがバランスシート(貸借対照表)です。
バランスシート
バランスシート(貸借対照表)とは、個人事業または会社の資産・負債の状況を可視化したものです。
バランスシートを確認することで、次の3つのポイントを把握することができます。
- 会社が持っている「資産」
- 返済する義務がある「負債」
- 総資産から負債を差し引いて残る返済義務のない「純資産」
金融機関は投資家が収益物件を購入することで、債務超過に陥らないかどうかをチェックしています。
債務超過とは、資産よりも負債の方が大きい状態のことです。
つまり、資産を全部売却しても、借金が残る状態のことですね。
例えば投資家がフルローンで5,000万円の収益物件を購入するとします。
決算書上は、資産5,000万円、借入金5,000万円で左右バランスが取れています。
しかし、銀行は収益物件は購入価格よりも低い価値で評価するのが一般的です。
一般的に銀行は土地の価値を相続税を評価するための路線価で算出します。
東京のような都市部では、土地の市場価格が路線価よりも30%以上高くなっています。
また、建物の評価額についても、積算価格といって市場価格よりも低い工事単価で価値が算定されます。
そのため、上記の例を銀行評価で見てみると次になります。
土地と建物の評価が下がる分、不動産の価値は20%減の4,000万円にしかなりません。
一方で借入金は5,000万円のままですから、資産より負債の方が大きいことになります。
この状態のことを債務超過と呼びます。
このケースの場合は、▲1,000万円の債務超過ですね。
そのため、キャッシュフローが出たとしても、金融機関は債務超過に陥る物件には融資を出してくれません。
なぜならば債務超過の物件に融資を出してしまった場合、要注意先に分類されるため、会計上、金融機関は「貸し倒れ引当金」という損失を計上しなければいけないからです。
この債務超過を防ぐために、金融機関は投資家に対して頭金を入れることを要求してきます。
例えば1,000万円の資産を保有している投資家がいるとします。
この投資家のバランスシートは次の通りです。
次に、現金1,000万円を頭金に入れて5,000万円の収益物件を購入します。
この場合の借入金は4,000万円となります。
収益物件購入後のバランスシートは次に変化します。
次に先ほどと同じ様に、購入価格5,000万円の物件の価値を銀行評価4,000万円で再評価します。
銀行にとってのバランスシートは次となります。
購入価格から20%減の4,000万円で不動産価値を見たとしても、借入金も同額の4,000万円ですので、資産と負債の額は同額になります。
つまり、債務超過を免れています。
この状態であれば、銀行もOKです。
こうして、キャッシュフローとバランスシートの両方の観点での審査に合格して、初めて融資OKが出るのです。
まとめ
僕たち個人投資家が銀行から融資を引くためのポイントは次の通りです。
- 得意客になれる可能性のある地銀・信金を狙う
- 審査には支店審査と本店審査の2ステップがあることを理解する
- キャッシュフローがプラスかどうかをチェックする
- バランスシートが債務超過にならないかどうかをチェックする
不動産投資向けの融資が厳しくなったとはいえ、ほとんどの地銀・信金にとって不動産賃貸業向けの融資は最大の収益源です。
本音では、できるだけ貸し出して収益を最大化したいと考えているのです。
金融機関の内情をしっかりと理解した上で融資を打診すれば、必ず融資してくれるところが見つかると思います。
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ただ、物件の利回りや価格だけを見ていても、本当に儲かる物件かどうかは判別できません。
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