不動産投資がブームになっている。書店に行けば、不動産投資のノウハウ本が棚に並び、著名な先輩大家さん達が開くセミナーは週にいくつも開催され、満員御礼だ。そんな成功している?大家さんの中には、ここ数年で一気に規模を拡大し、サラリーマンをリタイヤしている人も多い。
そんな急成長したメガ大家さんには実は共通する弱点がある。それは、一度も不動産の暴落相場を経験していないということだ。リーマンショック以降、不動産相場は上昇を続けている。リーマンショックは2008年の秋であったから、すでに9年近く上昇相場が続いているということになる。僕自身ももちろん、暴落相場を経験していない大家の一人である。
自分への戒めを込めて言っておきたい。大家は暴落相場を乗り切ってこそ一人前であると言える。逆を言うと、僕は2008年以降に不動産投資を始めて、急拡大した大家さんを尊敬こそはすれ、信用はしていない。
フルローンの落とし穴
急拡大した大家さんに共通しているのが、フルローンを活用した投資手法だ。もちろん、現金一括もしくは、頭金を一定の割合入れて物件を購入することもできる。その場合は、手元に現金を用意しないといけない。物件を一棟買う度に通常は、現金が減っていくため、現金が貯まるまでは次の物件を購入できない。それでは、物件を増やすスピードが遅くなる。そのため、急拡大大家さん達は、このゼロ金利下の金融緩和状態を活用し、フルローンで物件を買い増ししている人が多い。最近、融資が多少厳しくなっているとは言え、既に実績のある大家さんにフルローンを出す金融機関は、地銀を筆頭として多い。
また、最近は金利も低い。実績のある大家さん達は住宅ローン並みの0.5%程度で借り入れている人も少なくない。おまけに法定耐用年数以上の借入期間を設定してくれる銀行も多いため、長期でのローンを組むことができる。そのため、利回りが低下している昨今、フルローンで購入しても、キャッシュフローが黒字になるという状況を作り出しやすい。このメカニズムを利用して、規模を急拡大している大家さんが多い。
そのような大家さんの中には、サラリーマン給与以上のキャッシュフローを達成し、既にセミリタイヤを実現している人も少なくない。
ただ、この種の大家さんには不安定さがつきまとう。それは、このやり方は不動産価格が上昇し続けるという特殊な経済環境の中でしか成り立たない投資手法だからだ。
不動産価格が下がるとどうなるか
長期のローンを引きながら、フルローンで規模を急拡大している場合、不動産価格が下落しない限り大きな問題にはならない。なぜかと言えば、万が一賃貸経営が行き詰っても、不動産を手放せば、購入価格よりも高く売れる可能性が高いからである。残債も少しばかり減っているため、売却のタイミングで収支がプラスになる人も多いだろう。
ただ、不動産価格が下落した場合はどうなるだろうか? 30年フルローンで購入した物件の場合、残債の減るスピードは非常に遅い。そのため、売却しようとしても、売却金額が残債を下回るケースが出てくることになる。この場合、物件は抵当権を外せないため、売却することができない(銀行が許可してくれない)。となると、残る手段は物件を持ちづつけて返済をし続けるしかない。キャッシュフローが黒字の間は良いが、基本的に家賃は下落していく。減価償却費や金利返済は減り続けていくため、税金負担は増え続ける。その結果、キャッシュフローがマイナス。つまり、毎月の持ち出しに陥ってしまうリスクが高くなる。
持ち出しが月に数万円の間なら、何とかサラリーマン給与の中から補てんをすることができるかもしれない。だが、数十万円の持ち出しになるとどうだろうか? よほど給与に余裕のある人でないと支払いは困難だろう。こうして返済が滞った先にあるのは、厳しい世界だ。良くて任意売却だろう。物件を売却した後も、残債を金融機関に返済し続けなければならない。
景気は循環している。過去の歴史を紐解くと大よそ7,8年のサイクルで、好景気と不景気を繰り返している。前回の不況の底であったリーマンショックが2016年秋。既に9年が経過しようとしている。僕たち新米大家は次の暴落への備えを始めたほうが良いと思う。そして、暴落を乗り切った際に、ようやく大家として一人前と言えるのではないか。